2022.10.28
愛車と長く付き合っていくために日々のお手入れは不可欠
自分で行えばさらにバイクへの愛着も湧くというもの
このページではバイクの知識に自信がなくても
カンタンにできるお手入れノウハウを分かりやすくご紹介
さぁアナタもメンテナンスライフを充実させよう!
エンジンオイルの交換が必要なことは誰でも知っているだろう。エンジンオイルを交換して、吹けあがりの良さなどの効果を体感した人もいるだろう。
エンジンオイル交換の必要性は、なんとなく分かる。でも、なぜ交換が必要なのか?
エンジンオイルついて改めて学んでみよう。
教わったのは、トタルエナジーズ・ルブリカンツ・ジャパンの伏見さん。同社でバイク関連製品を担当するエキスパートだ。
まず、知っておきたいのがエンジンオイルの役割。
エンジン内部は、金属製の部品がギッシリ。スムーズに動かすためにオイルが必要なのは、感覚的に分かることではあるが……。
「エンジンオイルには“五大作用”といわれる役割があります。
まず“潤滑”は、エンジンの部品をスムーズに動かすために潤滑すること。
“冷却”は、ガソリン燃焼などで発生した余剰な熱量を吸収し放出する作用。
“密封”は部品の隙間を塞ぐ効果、代表的なのがシリンダー内壁とピストンリングの密閉性向上などです。
ガソリンが燃焼するとカーボンと呼ばれる煤が発生し、エンジン内部に残って汚れになります。
そのカーボンやエンジン内部の汚れを洗い流す“洗浄”。カーボンは固まりやすく、他のカーボンとくっついて大きくなると厄介です。
カーボン同士をかたまらせない“分散”作用も洗浄の役割に含まれます。“防錆”は金属製部品を錆から守る作用です。」
なるほど、エンジンオイルは、エンジン性能の維持に重要な役割を持っているのだ。
では、交換の必要があるのはナゼか? また、交換のタイミングはどう見極めるのか?
「劣化の主な理由は、熱や空気との接触による酸化、シリンダーから入り込んだガソリンによる希釈、水分の混入などです。
洗浄作用でエンジン内部の汚れを取り込むことも劣化原因の一つです。
エンジンオイルが著しく劣化すると、エンジン性能が落ち故障を誘発する可能性もあります。そうなる前に交換してください。
使用限界の見極めは、オイル成分を分析すれば明確ですが、一般ユーザーには現実的ではありません。
また、使用条件によって劣化の度合いもさまざまで、一概にいえない部分もあります。
一般的にオイルの劣化はエンジンの稼働時間に比例しますが、短時間の走行を繰り返すとオイルに混入したガソリンや水分が蒸散せずに残り劣化を進めたりする。本当にケース・バイ・ケースなのです。
安全マージンをとって、距離で管理するなら走行3000キロ毎、走行しなくても6カ月毎に交換すれば、まず安心と考えていいでしょう。」
交換のタイミングはそうとして、オイルの銘柄選びも難問。エンジンオイルは、それほど種類が多い。
「まず、バイク用エンジンオイルの規格“JASO”規格に適合した製品であることが前提です。安いからと四輪用オイルを使用するのはダメです。
バイクと四輪では、エンジンオイルに要求される性能要件が異なりますから、最悪の場合はトラブルを招きます。
メーカー指定のオイル粘度に合わせることも必須です」
JASOは「日本自動車規格」の略称、ここでいうJASO規格は日本主導で定めた、バイク用エンジンオイルの規格。高出力化されたバイクでのトラブル防止のために、クラッチやギヤの磨耗に配慮したバイクに特化している基準が設けられている。4サイクルエンジン向けの規格はMA、MA2、MA1、MBの4規格が存在する。摩擦特性や粘度によって区分けされ、どの規格が高性能というわけではないが、一般的なバイクであればMA2適合品を選べば問題ない
オイル粘度は、製品に表記されている「10W-40」などの数値で表される。この場合「10W」は低温時の性能、「40」は高温時の性能を表している。
メーカー指定から粘度を変更する場合、高温時の数値を上げるのはOKだが、下げるのはNGだそうだ。
また、エンジンオイルのパッケージを見ると、化学合成油と鉱物油という表記があり、他にも半化学合成油や部分合成油という表記も存在。グレードの違いなのだろうか?
「ベースオイルの違いです。ベースオイルとは、エンジンオイルの主要な原料のひとつ。ベースオイルは原油から精製されたもので、さまざまな添加剤を加えてエンジンオイルとなります。
化学合成油と鉱物油はベースオイルの呼び名で、精製の度合いが異なります。」
一般的に、化学合成油が最も高価で、半化学合成油、鉱物油の順で安くなる。やはり、値段が高い化学合成油が高性能と思ってしまうが……。
「価格の違いは、ベースオイル精製方法によって生まれます。化学合成油は精製時に手間がかかり、その分コストがかさみます。
ですが、化学合成油の方がハイグレードかというと、必ずしもそうは言い切れません。
化学合成油は他に比べて耐熱性が高く、劣化しにくいのは事実です。低温時でも流動性に優れるので、寒冷期間のエンジン始動性の面でも優位性はあります。
ならば鉱物油は性能が悪いのかというと、そうではありません。
樹脂部品への攻撃性が低いので、オイル滲みが出にくいといったメリットもあるのです。
エンジンオイルの性能は、ベースオイルだけでは決まりません。重要なのは、どういった添加剤をどの割合で配合し、どう製造されているかです。
そうは言っても、ユーザーさんからは見えにくい部分です。良いエンジンオイルを使いたいのなら、実績のある信頼されたメーカーの製品を選ぶのが無難です。蓄積されたデータと研究量が違いますから。
例えばエルフの製品は世界中で使用され、そのデータを集めて製品開発に活かしていますし、モータースポーツに関わり過酷な条件でのテストも行っています。
そうしたスケールの大きさも、オイルメーカーの技術力を表す指標のひとつだと思います。」
奥の深いエンジンオイルの世界。ここで得た知識を活かして、自分に合ったエンジンオイルを探し出そう。
➊ 潤滑
エンジン内部の部品に油膜を形成し、摩擦を抑えスムーズに動かし、磨耗を軽減する
➋ 冷却
ガソリンの燃焼や摩擦によって発生する熱を吸収して発散。熱が一箇所に溜まるのを防ぐ
➌ 密封
エンジン部品の隙間に入り込み密閉性を向上させる。性能の安定化に欠かせない作用
➍ 清浄分散
エンジン内部に発生した汚れを洗い流し、汚れ同士の固着も防いでクリーンに保つ
➎ 防錆
金属は空気に触れると酸化して錆が発生する。部品表面の油膜が、錆の発生を防止する
加えて……
★緩衝
部品の間に入り込み、クッションとなることで、稼働時の部品が痛むのを軽減する
★コールドスタート
エンジン内部部品に油膜を形成・維持し、エンジン始動時にも部品を保護する
BikeJIN2022年4月号(Vol.230)掲載